そんなある日のこと。数冊持ち帰っていたチェコの絵本を開いてみた。すると、不思議と心が落ち着くのだった。絵本を開いたとたん、紙から漂うなつかしい匂い。
私は自分がチェコの家の居間のソファーに座っている気になった。キッチンからはバビチカ(おばあさん)が妹と何やら話しながら料理をしている気配がした。コンソメスープの煮えるいい匂いまでが、まるで辺りに漂ってくるようだった。
時々、そっと声を出してチェコ語を読んでみた。途切れながら読むチェコ語も、自分の耳にはなつかしく響き、かえって胸がしめつけられた。
こうして、日本に持ち帰ったチェコの絵本はいつの間にか、私とチェコを結ぶ接点となり、いつでも絵本を通して私の心はチェコへと飛んでいくことができた。
中学1年のとき、両親と妹が帰国して東京へ戻ってもチェコへの思いは募る一方で、チェコの絵本を翻訳する仕事がしてみたいという、より具体的な夢のようなものを持つに至ったのはこの頃だ。






