キノコ切手に目覚めたわけ〜ベトナムと中国で〜

―食でも他のグッズでもなく「キノコ切手」に惹かれるのはなぜでしょう。

平面になっているイメージに惹かれるんです。平面のイリュージョンに比べると立体化した実物は魅力が減るように感じます。普通は実際に形があって感触とか匂いとかがある方が面白いんだと思いますが...僕が変なのかな。

キノコ切手に関しては、キノコの平面のイリュージョンとして最高にピッタリきていると思っています。ちっちゃくて愛らしいし、図柄も国ごとに違う。集め始めたらどんどん増殖するんじゃないかな、キノコのようにね。コレクションの対象としてこれだけ素晴らしいものはない。実物のキノコをこれだけ集めたら大変でしょう。そういう意味ではキノコ切手は必然的に僕の前に現れたと(笑)

一印刷物へのこだわりというのはあるのでしょうか。

それはものすごくある。紙と結びついたイメージへのこだわりですね。僕の専門の写真もそういうところがあって、パソコンの画面で見たりするのも嫌いじゃありませんが、やっぱり紙というか、繊維にイメージが絡みあって出来上がった一つの質感に執着がある。それは視覚だけでなく触覚的なものも含んでいるんじゃないかと思うんですね。紙を触ったりめくったりするときの感じ。
切手も、紙であるという魅力は大きいと思っています。実物のキノコと紙のテクスチャーが合わさった時に、より複雑で面白い魅力が生まれる。

 

一最近は本当に減りましたが、凹版印刷というリトグラフによるものなど特に美しいですね。

あの食い込んでいる感じは好きですね。

一あれは熟練の職人さんが一つひとつ版を作っていたわけですが、そういう技術を持った職人さんがいなくなってしまった。

そうですね。それは本当に憂うべきことで、ずっと切手を見ていると気がつくのだけれども、90年代以降急速に切手の質が落ちているような気がして仕方がない。だから2000年代以降はあまり興味がなくなってきています。

ベトナム、中国・・・「狂喜乱舞」の出会い

一そもそもキノコ切手を集めるようになられたきっかけは?

10年くらい前に、何人かの人からキノコの切手をもらっていたんですよ。僕がキノコ好きだということで。たしか東ドイツとかジプチのものだったと思いますが、その時はただそのまま保管していました。

3年くらい前にベトナムに行った時に、ホーチミンの観光客向けの露店でたまたま切手を売っているのを見つけて、なんとなく「キノコ切手ある?」と聞いてみたんです。その時はなかったんだけど、「明日また来れば用意しておく」と言われて、次の日その露店に行って買いました。ベトナムのキノコ切手はなかなかレベルが高くて、毒キノコのシリーズなどもあって。それを見た時に「これはすごい」と何かひらめくようなものがありました。

そしてまた別の仕事で今度は上海の豫園(よえん)に行った時に、なぜだか勘が働いて、寂れた建物の階段を昇ったところに、「郵票」という文字を見つけたんです。「これは切手屋があるに違いない!」と思って行ったら、本当に切手屋さんの集団があった。「切手村」ですね(笑)。観光客は誰も来なくて、新宿の切手センターみたいにお客さんがパラパラいるという、すごく寂れた雰囲気だったんだけど、僕はそういうのがすごく好きなんですね、もともと。

それで「これは!」と思って、筆談とかしてキノコの切手を出してもらって、「これかわいい、買うよ」なんて言ったら、周りの店員がどんどん集まって来ちゃったの。これもあるよ、あれもあるよ、って(笑)。それで、その切手村の中にあるキノコ切手が全部集まったわけ。それが小さなストックブック1冊分くらいになった。安かったですよ。全部で数千円だったと思う。

一ストックブック1冊分! すごいですね。それは中国の切手だけですか?

いや、中国のものだけでなく、南米のものなどもありました。後から見ると、使用済みの切手も多かったりして、かなり不完全なんだけど、そのときは「これはすごい!」と狂喜乱舞して、旅の間中そのストックブックを持ち歩いていました。

これがきっかけでしたね。日本に帰って情報を集めていると、切手のオークションがあるとか、新宿の切手センターがあるとかということがわかって、だんだん広がっていった。カタログも手に入ったし。このカタログの存在は大きかったですね。まだ集めきってはいないけれど、大体そろいました。98年くらいまでのものは全部集めようかなと。

でも、今年は(切手収集の)熱がやや冷めてきていて、一昨年ぐらいが一番盛り上がっていましたね。こういうものは、ワーって集中してやると、少し沈静化しますよね。そしてまたしばらくすると盛り上がる。

一ええ。わかります(笑)

まぁ、キノコ切手に関してはめぼしいところは大体集めたような気がします。コンプリートコレクションをしようというつもりもあまりないので。

一世代的に幼少の頃に切手収集をされていたのでは?

それはありますね。僕の世代は誰でもやっていますよ。ただ、僕は切手の本とストックブックを1冊買って、こんなのがあるんだと眺めていた程度です。あとは親類に旅行の好きだった人がいたようで、戦前の外国の絵はがきがうちにあったんですね。そういうのを切り抜いたりはしていたという経験はあります。

一大阪万博や東京オリンピックの切手などは?

そういうのを、切手のお店をまわったりして集めた記憶はないですね。とにかくうちにある切手を整理してみようかな、くらいのところで終わってしまったような気がします。僕の場合、切手そのものに惹かれたというわけではないので。

一キノコ切手本の出版にあたってひとこと。

今の段階では学術書のように全てを整理する必要はないと思っています。ただこのとてつもない面白さがちゃんと伝わればいいかな、と。絶対にブームが来ますよ(笑)。潜在的なキノコフリークはけっこうたくさんいるんじゃないか、と思っているので。

聞き手・構成:伊藤 高


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